日本では親子関係は二重の推定によってなされています。女性は出産という事実があれば親子であることはわかります。しかし、男性については親子関係を決めることは簡単ではありません。科捜研の女の沢口靖子さんがいる現在であれば、DNA鑑定をすることで親子か否かは調べることができます。しかし、民法ができたのは明治時代です。その時代にDNA鑑定は困難ことです。そこで、1.夫婦の同居・貞操義務、2.懐胎(妊娠)の医学的統計を使って推定する仕組みを民法で作りました。
1.妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。(772条1項)
2.婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。(772条2項)
子どもはおおよそ280日ぐらい産まれるので、「結婚」→「枕を並べる」→「婚姻後200日後に子どもが産まれる」→「夫の子という推定」です。
一方で、「離婚数日前」→「枕を並べる」→「懐胎・離婚」→「300日以内に子どもが産まれる」→「婚姻中だった頃の夫の子という推定」です。
つまり、民法が予定している夫婦の形であれば、おおよそ夫の子として推定されます。
そのため、民法が予定していないことをした妻はトラブルを抱えることになります。
例えば、DV夫から逃げているときに、優しい男性に抱かれ子を授かってもDV夫の子として扱われます。
夫との離婚が成立して300日以内に別の男性の子を出産する。などがあります。いずれも夫の子という扱いになります。
そのことが300日問題や無戸籍問題につながります。
現在では、科捜研の女のようにDNA鑑定することで親子関係を調べることができるので明治時代に作られた民法を改正してもよいのかもしれません。この民法772条は親子関係を早期に決めることで子どもの福祉になるようにという考えで作られています。親子を決めるという点だけでいえば、DNA鑑定で十分であるように思います。
このように、婚姻中の妻が出産する子は夫の子という推定が強く働きます。しかし、妻が別の男性と枕を並べれば妊娠することもあります。そこで法律は嫡出否認の訴えというものを用意しています。
嫡出とは「法律上の婚姻関係にある男女の間に生まれること」という意味です。
嫡出否認とは「妻の子は俺の子ではない。不倫相手の子だ」というようなものです。
嫡出否認の訴えは男性側の利益を守るために使われるものです。そのため、妻の側から「この子は夫の子ではありません」と嫡出否認の訴えをすることは認められないとされています。
嫡出否認の訴えを女性側ができないのは平等を定める憲法に違反しているのではないかという裁判が最近されたようですが、認められなかったようです。
ところで、夫が懲役5年で服役中に例えば3年目ぐらいの時になぜか妻が子を産んだ場合、民法772条の条文を当てはめると服役中の夫の子であると推定されることになります。しかし、服役中に妻を妊娠させることはできません。(凍結受精卵や預けている夫の精子を使ったなどの現在の科学を使えば可能かもしれませんが、今回は除きます)
そこで、裁判所は「推定の及ばない嫡出子」という表現で判決を出しています。
例えば、婚姻関係は破綻しているが離婚は成立していない長年離れて暮らす夫婦、夫が海外に長期出張中の夫婦、夫が出征している夫婦などの子が「推定の及ばない嫡出子」とされるときもあるようです。
この「推定の及ばない嫡出子」については、親子関係不存在確認の訴えをすることができます。嫡出否認の訴えと違い、利害関係があれば訴えることができます。
貞操を守って、民法を守っていれば問題が起こることはあまりありません。しかし、人にはそれぞれ事情があります。倫理に反する行いから不運な事故まで、生きていると予定しないことが起こってしまいます。
社会が法によって動いているのなら、解決も法によってされることになります。法の不備により不幸な状態に置かれることもありますが、その不備を改善するように働きかけることも社会のためになります。
先日も以下のようなこと書きました。
裁判をしたことで後の法改正につながった話を少し書いています。
尊属殺人や再婚禁止期間、非嫡出子の相続分などの裁判がされたことで、改正につながりました。
嫡出否認の訴えを女性にも認める日が来るのかはわかりませんが、現在の科学(DNA鑑定)で親子関係を調べることができるので、親子関係の推定や認知の訴えなど調べればわかることについては、現在に科学にあった法改正がされてもよいのではと思います。